長野地方裁判所 昭和42年(手ワ)38号 決定 1968年7月31日
原告 宮崎良雄
被告 宮本智
主文
本件を長野簡易裁判所に移送する。
理由
1、本件記録によれば、本件については、昭和四二年一二月一四日、原告から長野簡易裁判所に対し支払命令の申立がなされ、同裁判所は翌一五日右申立に因り支払命令を発し、右支払命令は翌一六日被告に送達されたところ、これに対し、同月一九日被告から異議の申立がなされたため、同裁判所書記官は同月二一日右一件記録を当庁に送付し、同日当庁においてこれを受理したものであることが認められる。
2、しかしながら、宮本愛子審問の結果によれば、宮本愛子は被告の妻であって、被告の肩書住所地に被告と共に居住していたものであるが、本件支払命令正本が右住所宛に届けられた当時、被告は同女の許を出て情婦と他に居を構え、夫婦別居の生活をしており、同女は被告の居所も知らず連絡方法もなかったこと、本件記録中の支払命令正本送達報告書、準備書面副本等送達報告書に押捺されている「宮本」の受領印は、愛子が代表者をしている第一石油有限会社の事務員が、情を知らぬままに送達書類を受取ったうえ日常右会社で使用している印鑑を押捺したものであり、また、支払命令に対する異議申立書は、愛子が知人に教えられるままに被告には無断で被告名義でしたものであって、被告は本件支払命令正本が肩書住所地宛に届いていることは全然了知していないことが認められるから、右事実関係の下においては、本件支払命令は未だ被告に送達されていないものといわざるを得ない。
3、そうだとすると、本件が当庁に係属するに至るのは適法な異議の申立がなされたときであるから、右のとおり未だ支払命令が債務者(本件被告)に送達もされていない以上、本件は訴訟として当庁に係属するに由なく、なお督促手続として長野簡易裁判所に係属しているものとみるべきである。
4、しかしながら、前記1認定の経緯から、本件については、記録の送付により、外形上はすでに当庁に訴訟が係属しているかの如き観を呈しているので、かかる外観を排除し、改めて、本件支払命令申立事件につき専属の管轄権を有する長野簡易裁判所の手続に服せしめるため、民事訴訟法第三〇条の法意に則り、主文のとおり決定する。
(裁判官 落合威)